アリスは夢で,鏡の国に迷い込んでしまったように思われがちですが,本当は鏡の中に囚われたのに気付かなかっただけ,だったのです。その鏡の国がどこだったのかは,キャロルにもまだわかりませんでした。
quote:ロイヤル・フィリップス・エレクトロニクス社は,鏡のガラス面にテレビ放送を映し出す,ミラーTVを発表した。2005年には家電製品として販売する。洗面所でテレビを観られるようにしたり,パソコンを接続してインターネットやメールも楽しめるようになる。
アリスはチェスの盤面でステップを踏みながら,ふと立ち止まり,妙なことに気付きました。チェスの盤面は8×8しかないはずなのに,アリスの目線の先には,遥か彼方まで格子模様が続いています。まぁ,果物がなってから花が咲くような世界だもの,世界の広さがわたしの想いと同じなわけはないと,アリスは天上を転がっていく麦藁帽子を見上げて思っていました。次のステップを踏んだ先には,1枚の鏡が置いてありました。鏡の国の中に鏡があったら,合わせ鏡の中で死んでしまいそうと思いながら,ひょいとその鏡を,好奇心でのぞいてみたのです。
鏡には自分の姿が映っているものですが,その鏡の中には見知らぬ少女がこちらを覗いていました。あなたは誰,わたしはアリス,と問い掛けると,鏡の中の少女も,あなたは誰,わたしはアリス,と問うていました。あなたがアリスなわけはないわ,わたしがアリスだもの,というと,少女も同じく答えているようです。困ったアリスはふと鏡の中に手を伸ばすと,なんの境もなく,鏡の中に入り込んでしまいました。そして逆に少女は,鏡の中から鏡の国へと入り込んでしまったのです,すれ違いざま,アリスと唇を重ねながら。鏡の中のアリスと同じように困った顔をしていた鏡の国の少女は,ふいに,がくん! と首を振って,一言だけ云って,ステップを踏んで行ってしまいました。「ようこそ,鏡の中のネットワークへ,またはネットワークの中の鏡へ。あなたのための場所へ」。
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